「君が嫌いだ」
割れたガラスのように
パリンと、砕けた。
愛していた人だった。
もう千切れかけている糸がぷっつりと切れたのだ。
例えるなら、人との繋がり。糸が絡まるように、糸を結ぶように、関わってきたものがぷっつりと。
人の心が壊れるときは、案外、簡単だ。
やけにあっさりとしている。
いつも重い荷物を抱えているようで
濁りきった黒い淀みを胸に抱えていた。
決して浄化されたわけではないけれど、砕けた硝子の隙間から漏れ出るように、減っていく。
レゴブロックみたいに積み重ねるのは時間がかかるけど、崩すのは一瞬だった。
なぜか息を吸うのが楽になる。
好きだった。手放せないほどに愛していた。
糸を紡ぐのは、織るのは、時間がかかる。
そう、大変な作業。どこか心の片隅で。
もうやらなくていいのだと安心した自分が居る。
あんなに耐えていた昔の自分が滑稽で、なのに強く思えた。たった一人の――をどれだけ傷つけられても愛せたこと。
『強くなったね』
『優しくなったね』
(そうかしら?)
取り繕うことを覚えただけだ。人と距離を置けば心に傷をつけなくてすむ。見なくてすむ。どこまでも臆病。
だから、一人でいたい。
「今の私のほうが弱いかも」
優しさは強さだというけれど、
強く見える人は優しくない。
大人のふりを覚えただけ。
煙草も吸えるようになって、
お酒も飲めるようになって、
満員電車に乗って。
きっと子どもたちのほうが大人だった。
傷つくことが怖くて向き合えない。
なんて情けない。
愛は人を強くするとよく言うけれど、
私にとっての愛とは、枷。
(サヨウナラ)
7/31/2024, 10:22:31 AM