【筑波嶺の嶺より落つる男女川 戀ぞつもりて淵となりぬる】
黒板に書かれた和歌を古文の先生が解説している。
陽成院が綏子内親王へ向けて読んだ和歌で、恋をする気持ちが膨らんでいく様子を描いているらしい。
恋ねぇ…と思いながら視線を黒板から目の前の背中に移す。
こくり、こくりと舟を漕ぐ頭を心許ない頬杖が支えている。
いつもより小さく丸まっている背中。
右手に持ったシャーペンを置き、その背に指を向け空書きする。
「糸し、糸しと言う心、ってね」
「ぁでっ」
頬杖という相棒を失った舟は大きく沈み、
教科書で作った舟隠しの上に座礁したようだ。
「君の背中」2025.02.09
2/9/2025, 3:13:52 PM