「私 にっこりマークって嫌いなんだよね」
突然始まる会話はいつもの事。脈絡がないのもいつもの事。言いたいことがわからないのもいつもの事。
つまり今日も今日とて目の前にいる人物は変わりがないようだ。
「にっこりマーク? 絵文字のスマイルのこと」
「そう。特に黄色いヤツ」
手に持っているスマホをブラックアウトさせながら,行儀悪く肘をついて視線をこちらによこす。
「なんで?」
「うさんくさいから。イラッとするし」
メッセージアプリを開いた画面を見せ付けるようにして突き出しそう吐き捨てる。そこにあったのは,文字ばかりの右側の吹き出しとは対象的な,絵文字とスタンプだらけの吹き出し。
こんな所でも性格が出るのだと少しおかしくなった。
「私にはこう見える」
そう言ってまるでお手本のようにニッコリと口角を上げ目尻を下げて視線を合わせてくる。
笑顔なのに能面のように感情のない虚ろで冷めきった表情。
「ごめん。怖い」
「だろうね。全力の作り笑顔だし」
興味なさげに返事をして笑みをおとす。無表情に近いそちらの方が感情の色をのせるのだから不思議だ。
ただひたすらに喜びの感情だけを表す顔文字。確かにそんな表情を送られているのだと思えば,胡散臭いという感想もおかしくはない。
「いちいちつける意味がわからない。無駄」
「わかりやすいし」
色もついているから視覚的に理解しやすい。感情を伝えやすい。だから使うのだけれど。
「彩のためのパセリを大量にばらまいた料理。私はいらない」
「ああうん。いらないかも」
妙に具体的な例えに納得してしまった。要件がわからなくなるくらいの絵文字は邪魔にしかならない。そう言いたいわけだ。
「だよね。わかってもらえた?」
ふんわりと微笑んだその表情はスマイルと言うには控えめで,柔らかく軽やかな微笑。
「……そんなの絵文字じゃ無理」
呟いた言葉は幸いにも聞かれなかったようで,また取りとめのない話が始まる。それに相槌を打ちながら瞼に焼き付いた表情を思い出していた。
テーマ : «スマイル» 23
2/8/2023, 2:53:37 PM