nanasi

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あの日はたしかに、少しだけ特別だった。
でもそれは、派手な飾りや約束じゃなくて、
いつもの道を、少しだけ違う気持ちで歩いた、そんな日だった。

窓を開けたときに吹いた風が、やけにやさしく感じたとか。
自動販売機の前でふたりして選んだ缶コーヒーが、思ったより苦かったとか。
たわいもない話で笑ったあとの沈黙が、ぜんぜん怖くなかったとか。

特別な日っていうのは、
あとから思い返して気づくんだと思う。
もう戻らない時間の中に、静かに置き忘れてきた何かみたいに。

そして今は、
そんな日をいくつも過ぎたあとの、どこかの午後。
スマホのカレンダーには何も書いていないし、
流れる音楽も、いつものプレイリスト。

でもふと、あの日の光景が浮かんでくる。
それだけで、今日という日も少しだけ、特別な気がする。

7/18/2025, 5:12:56 PM