たま

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沢山の人が形成した長蛇の列を潜り抜けて、冷たい夜風が肌を愛でる。あまりの寒さに全身が粟立ち、身体が思わず縮こまる。周りも同じようなポージングを取っていて、その姿が情けなく、自分も同じような姿勢であることに恥ずかしくなったけど、姿勢を正すことを躊躇するほどに身体の芯まで冷え切っていた。
なるべく肌を寒さから隠したくて、手をポケットの中に入れる。1人分の手のひらは空っぽのポケットに入れてもまだスペースに余裕がありそうだった。カイロを持ってこなかったことに軽く後悔しながら、確か去年もカイロを忘れて凍えるような寒さに必死に耐えながら初詣にきたことを思い出す。

やった、大吉だ、と喜びの表情を全面に出す彼女はとびきり可愛かった。2人とも冷え性だったからお互いの指は血が通っていないんじゃないかというほどに青白かったから、御神籤を見せあった後は指を絡めてお気に入りのコートのポケットに温もりを求めた。小物ならすんなり入るポケットも、2人の手を入れると大きく膨らみ、自然と近づく彼女との距離に心臓が早鐘を打ってうるさかった。来年もまた行こうね、と嬉々として話す彼女。そうだね、絶対行こう。改めて、新年明けましておめでとう、今年もよろしくね。こちらこそあけおめ、ことよろ。

でも、去年のこの日、白い息と共に交わされた約束は冬の夜空に消えていった。
今年、横に彼女の姿はない。未だ脳裏にチラつく彼女の声と匂いと表情。女々しいと分かっていながら引きずり続けている自分に辟易する。そんな自分と決別するのが今年の抱負かもしれないな。そう思って、彼女のトーク画面に下書きされた文字を消していく。

新年明けましておめで

1/1/2024, 5:41:08 PM