かたいなか

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「ほうかご……!」
学校で、その日の授業が終わったあとのこと。
あるいは長編推理小説のタイトル。
前回の題目の「カーテン」もカーテンだったが、今回もまぁ、随分限定的なジャンルだことで。
某所在住物書きは、己の投稿スタイルと今回出題の題目との相性に苦悩した。
アレか。3月から積み重ねてきた現代風ネタの連載方式、そのキャラで学園パロでも書けば良いのか。読み手も置いてけぼりだし書き手としても無茶振りではないか。すなわち悶々か。

「放課後のリアルな思い出、何かあったか……?」
昔々に過ぎ去った時間の、何をネタに書けるだろう。物書きは仕方なく、今回もネットに助言を求める。

――――――

すごく久しぶりに、小学校と中学校時代に通ってた駄菓子屋さんに行きたくなった。
「えっ、うそ、閉店?」
理由は特に無い。強いて言うなら、放課後しょっちゅう食べてた「ランチクレープ」、クレープ生地で焼きそばとかウィンナーとか、豚の角煮とか、美味しいおかずを包んだ300円の約20種類を、急に思い出して、久しぶりに食べたくなったから。
「いつ、……今年の5月、……まじ……」

お店の名前は「大化け猫の駄菓子屋さん」。
店主のおばあちゃんが、「私本当は化け猫なのよ」って、おどけてニャーニャーしてたのが、当時すごくほっこりして、不思議で、魅力的で、
給食センターから送られてくる、ちょっと冷めた給食が嫌いで、食べたくない献立の時はわざと残して、
下校途中、小銭握りしめて、そうだ、当時まだバーコード決済なんて無かった。
おなか空かせてここに来て、できたての、あったかいクレープを夢中で食べた。

その駄菓子屋さんが、今年の5月7日で、店主高齢のため閉店したらしい。
お店はシャッターで閉ざされて、張り紙が長年のご愛顧云々、勝手ながら云々してた。
「そっか。もう、食べられないんだ」

当時食べてたランチクレープの温かさと、店主のおばあちゃんの優しさを、しみじみ思い出す。
友達誘ったこともあった。先生と鉢合わせたことも、ひとりで泣きながらクレープ食べたこともあった。
いつ来ても、美味しいクレープが私の心とおなかを幸せにしてくれて、
どんな時でも、おばあちゃんは本当のおばあちゃんで、皆のおばあちゃんだった。
その懐かしい放課後が、今年の5月7日をもって、閉店しちゃったらしかった。
「せめて最後に、お別れの挨拶したかったなぁ……」

――で、しんみりしたハナシを、職場の長い付き合いな先輩に、先輩の部屋でシェアごはんしてる時の話題として出したら、
「多分私、アクセス方法知ってるぞ」
だって。

「大化け猫の、『駄菓子屋』だろう」
先輩が1〜2人用鍋の中の、コトコト煮込んだポトフをよそって、私に言った。
「ひいきにしている茶葉屋の店主から、『5月に閉店した駄菓子屋のおばあさんが送ってくれた』と、福島の桃を貰ったことがある。ひょっとしたら、お前が言っている駄菓子屋の店主のことかもしれない」

手紙でも書いてみたらどうだ?
先輩は私にポトフを寄越してから、文章の下書き用に、1枚のメモ帳とボールペンを出してくれた。
手紙か……(小中学校時代、授業中の手紙以来説)

「ひとまず、ポトフいただきます」
最近グルチャとかDMとか、フリックにタップばっかりだもん。手書きなんて、何年ぶりだろう。
先輩からの提案に、ちょっと乗り気の私は、だけどポトフの中のゴロゴロな豚肉を舌にのせる。
豚の角煮ほどじゃないけど、柔らかいそれは、いつか昔に食べた幸せな思い出みたいに、あったかくて、優しかった。

10/12/2023, 3:29:06 PM