尾花に火種を落とす。
乾いた枯れ枝に引火させたら、上から杉の葉を乗せて……
よし。これで少しすれば、どんどん煙が出てくるはずだ。
そう思ったら、急に目の前がくらりと揺れた。傷は大したことないけど、疲れがもう限界。
焚き火の側に横向きに倒れる。
『独りになっちゃうとはなぁ…』
追手を引き受けてくれた上司の背中を思い出す。偵察の結果次第で合図を送り、味方の軍が一斉に攻めに掛かるのだ。
その狼煙が今、俺の手で上がる。
『――…』
口が勝手に想い人の名前を呟いた。上司と一緒に囮役になった女の子。君はまだ無事でいる? 俺たちは狼煙さえ上げれば退却できるから、どうか二人とも、無事でいてね。
弱っている時は考えることも弱気だ。煙が目に沁みる。
俺たちはこうやって、一番にやられていくものなのかな。
真っ先に燃える尾花のように。何かに後を託して。
目が痛い。眠い。ほめて、ほしい……
目を瞑ると、左目から零れた涙が右頬へと伝っていく………
上司の背中で目が覚めた。
後ろを歩いていた想い人が上司よりも先に気付いて、煙の吸い過ぎで気絶していた、と教えてくれる。
『……風向きも考えずに火なんか焚くな』
上司は、俺の行動につらつらとダメ出ししながら歩いて行く。重要任務を果たしたんだから褒めてくれたって良いのにと文句を言ったら、女の目が無くてもそのくらいやれ、と言われた。……べつに意識なんかしてないですよっ!
ちぇっと口を尖らせると、会話を聞いていたその子がクスクス笑うので恥ずかしくなって、へらっ、と笑い返した。
……まあ、良いか。無事だし、置いて行かれなかったし。
上司(この人)、きっと何か奢ってくれるだろうから、それで褒められたと思っておこう。
【ススキ】
11/11/2023, 7:24:20 AM