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#麦わら帽子
麦わら帽子と聞くと、まだ小さかった頃の苦い思い出がよみがえる。
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「ねえねえ、おかあさん。わたし、あのあかいリボンのむぎわらぼうしがほしいの。おねがい、かってよ。」
「何言うてんの?もう、今日のお買い物は終わりよ。帰るわよ。」
「おねがいっ。いいこにするからかってよー。」
「そう?じゃあまた今度来たときあなたが今日よりいい子にしてたら買ってあげるわ。」
「じゃあ、やくそくね。ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーますっ。ゆびきった!」
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お母さんと、そう約束したというのに、いつまで経ってもあの麦わら帽子を買ってくれる日は来なかった。あの赤いリボンの麦わら帽子は次の週、胸を弾ませながらお母さんと買い物に行った時には、もう誰かに買われてしまっていたから。
私は力の限り泣き叫んでお母さんを困らせたから、困ったお母さんは代わりに私の好きな赤色の可愛らしいワンピースを買ってくれた。私はすっかり元気になったけれど、赤いワンピースを着る度に、あの麦わら帽子のことを思い出しては〝欲しいと思ったらすぐに買わなければならない〟という苦い教訓を噛み締めるのだった。

8/11/2023, 11:07:38 AM