かたいなか

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「1月の『ずっとこのまま』、先月の『ずっと隣で』、今回の『これからも、ずっと』、それから7月の『これまでずっと』。
ずっとシリーズは少なくとも5種類あるんだわ……」
某所在住物書きは去年投稿分を確認した。
雨降る外を眺める。去年はこのような物語であった。
すなわち、「ストレスが過剰な職場に『これからも、ずっと』居続けると、事実としてそのストレスが脳を傷つけるので、転職も手」。
新社会人へ向けた、ひとつのお節介を書いた。
あれから1年である。時は早い。

「1月と先月と今回と7月」
405日続けている物語投稿は、これからも、もう少し続くだろう。 物書きは呟いた。
「少なくとも5種類あるずっとシリーズ、残りの1種類がいつかって?――うん」
去年から何も変更が無ければ次回である。

――――――

雨降る都内のおはなしです。某所某職場、本店某部署のおはなしです。
加元という名前の、男性っぽい女声、あるいは女性っぽい男声の持ち主がおりまして、
先月から転職してきて、その目的が元恋人探し。
8〜9年前に勝手に自分の前から去り、去年やんわり「ヨリを戻すつもりは無い」と言われ、
しかし相手の就職先と所属部署は、しっかり突き止めておったのでした、

が、いざ該当部署に潜り込んでみると、居るはずの相手がおりません。
内線電話のマップも見ますが、すぐ見つかる筈の元恋人の名字がどこにもありません。
だって、「附子山」です。バチクソ珍しい名字です。

おかしい。 実に、 おかしいハナシです。
実は附子山、この加元に心をズッタズタにされたので、合法的に改姓して、それからこの職場に就職しまして、去年まで逃げおおせておったのです。
勿論加元、そんなこと、知るよしもありません。
あら残念。

「本店には、いない」
附子山改姓のトリックを知らず、加元、8つの支店のうち、6支店を巡り終えました。
「探してない支店は、残り2個」
ふたつの支店のうち、「最も来客が多くて忙しい」とされている方に、今日行ってみる予定でした。
ここに「附子山」が居なければ、異動先は最後の「最も来客が少なくてチルい」と評判の支店で決定だと、加元は確信していました。
「……なのになんで、雨降るかな」

濡れる、汚れる、ゴミがつく。加元は自然が大嫌い。
元恋人の居場所まであと少しなのに、雨に雲、風に気圧、最近の悪天候が邪魔をします。
「思い通りにならない。これだから自然は嫌い」


――場面変わって、旧姓附子山の所属部署。
現在上司の緒天戸が、会合で外出しておりまして、実質休憩時間の様相。
「加元、性懲りもなくお前のこと探してるぞ」
旧姓附子山の「旧姓」を知る宇曽野が、ひょっこり遊びに来ておりました。

「最後の支店も探して、『附子山』の名字がどこにも無いと知ったら、あいつ、どうするだろうな?」
それでも、これからもずっと、探し続けると思うか?宇曽野は元附子山、現藤森に、問いかけました。

「これからもずっと、この職場で『私』を探し続けるのは、まぁ確定していると思う」
「だろうな」
「そして近々、付烏月さんの『自称旧姓附子山』のイタズラに引っかかると思う」
「まぁ、それも事実だろうな」

「『附子山の勤務先を突き止めて、先月勤務先に就職してみたら、そこに居たのは自称附子山であって本当の附子山ではありませんでした』」
「『しかも自称旧姓附子山を名乗っていた理由が、「面白そうだったから」でした』」
「……荒れるな」
「荒れるだろうなぁ」

はぁ。
藤森と宇曽野はふたりして、浅いため息をひとつ吐いて、加元の部署があるだろう近辺を見つめます。
恋の執着って、すごいな。ふたりは数秒、あきれた視線で見つめ合い、またため息を吐くのでした。

「なぁ『附子山』。逃げた元恋人をこのままずっと追い続けるって、どんな気分なんだろうな」
「私に聞かれても、分からない。返答が難しい」
「たとえばのハナシだ。たとえばお前のところから、例の後輩が勝手に消えて、行方不明になって」

「宇曽野。それの逆を今、別に恋人でもなんでもないが、まさに私が後輩にしている」
「あっ、」
「先月からここに飛ばされて、異動先を一切知らせていない。あいつ私のこと怒っちゃいないかな……」
「さぁ?俺に聞かれても、それこそ分からんな?」

4/9/2024, 4:21:04 AM