僕は無力だった。
カラスが僕達を嗤っている。
ザリ、ザリ。
僕とひろくんの舗装の荒いコンクリートの砂利を踏む音が虚しく響く。
じんじんと痛みの訴えが腕や脚から聴こえてきた。
ひろくんの方をみると、僕と同じ様に小さな擦り傷をあちらこちらにつけていた。
僕はカサカサの唇を噛み締めた。
ズズッ、ズッ。
横から鼻水をすする音が聞こえだす。
ひろくんの耳は赤くなり大きな涙をボロボロと流し出した。
きっかけは些細な事だった。
放課後、僕はひろくんとリバーシをしていた。
すると突然、体がひとまわりもふたまわりも大きな上級生達が僕らを囲み出す。
「それ、やりたいんだけど。」
ひろくんは下をうつむいて黙り込んでいる。
僕は勇気をだして声を出した。
「今、遊んでるから」
それから何度か言葉を掛け合ったが覚えていない。
パァン!!
ひろくんの坊主頭から大きな音がなった。彼らが手を上げたのだ。
すかさず僕は髪を引っ張られる。もみ合いになり必死に抵抗したが僕らに勝ち目は無かった。
僕らは逃げるようにその場を後にした。
悔しい。悔しい。悔しい。
うぐっ…ズズッ。
ひろくんから情けない音が鳴り響く。
我慢していた僕の瞼も熱くなる。
口を開けば僕も涙が落ちそうだったので、ポンとひろくんの肩に手を置いた。
僕も同じ気持ちだよ。辛かったな。唇を噛み締めながら言葉を肩に置いた手に込めた。
家に着くと祖母が迎えてくれた。
何も話さないでいようとしたが、耐えられなかった。
「おかえり」
優しい声が耳に届くと同時に涙が溢れだした。
祖母の胸に飛び込むと、ありったけの大声で泣き叫んだ。
祖母は一瞬驚きはしたが、すぐに力強く抱き返してくれた。
「大丈夫。大丈夫。」
僕の頭を撫でる祖母の手からは玉ねぎのにおいがツンとかおってくる。
今日はハンバーグだ。
「よいしょとぉぉ」
声が小さな声に響く。
デスクワークで痛めた首をぐるっと回し、コンビニで買ってきたハンバーグを頬張る。
ゆっくりと噛み締めながらそんな昔の事を思い出していた。
ふと窓の外を見ると。
まんまるな満月がこちらに笑みを浮かべているようだった
8/8/2024, 10:12:18 AM