ろん

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『一筋の光』

――それはこの危機的状況を切り抜ける一筋の光だった。


…………あーあ、出たよ。このパターン。
ここまで絶望的に追い詰められ八方ふさがりの中、突如現れた救世主や突発的なひらめきで危機を脱するこのパターン。

せっかく面白い題材でよくできた構成だったのに。たかが〝一筋の光〟だなんて言葉でまとめてしまうのは浅はかすぎる。
そんな首の皮一枚繋がってるだけの状態なんてそうありはしないし、大逆転を起こせる奇跡なんてまずない。なのに、お手軽ハッピーエンドへの舞台装置を簡単に起動させてしまう人の多いことと言ったら。実に勿体ない。

作者に失望した私は本を閉じた。そして次に読む本を探す。

……しかし改めて図書館はいいものだと思う。時間の制限はあるが、好みの本を好きなように探せる。好みの作家に出会えることもある。素晴らしい場所だ。

とは言え、私は好みの作家どころか好みの作品にすら出会ったことがない。

……おそらく、私好みの作品は存在しないのだろう。
誰もがフィクションに希望を抱いており、理想を描いている。非現実な世界くらいは奇跡が起こる優しい世界であって欲しいと願っている。だから、この世の作品は〝一筋の光〟や〝大逆転〟とか〝唯一の希望〟で溢れているのだろう。


私はため息をついた。
好みが見つからない図書館で、今日も一筋の光を探し続けている。


2023/11/05――創作

11/6/2023, 5:19:04 AM