「それなら、もう別れちゃえば?」
ウィンカーが役目を終えて車が曲がり切った先で、彼女はそう言った。彼女のなんでも簡単に言ってのける癖はいつも突拍子がない。
「え〜そんな簡単じゃないんだよ〜」
相手は私の反応がわかっていたかのように笑う。そして、優しくブレーキを踏んだ。
「ほら、愚痴るのにいつもそう言う。そう言うと思った」
夜のドライブに誘い出したのは私で、車を出してくれたのは彼女だ。私の涙の理由は聞かないけれど、いつもより優しい声質が答えだった。
「じゃあせめてこっちから連絡するのはやめなよ。全部あんたからじゃん、相手何様なの」
「うぅ〜、わかった…連絡しないように頑張る」
「それ明日にはあんたから連絡してるよ」
「なんでそんなこと言うの!」
私が癇癪を起こせば、彼女は乾いた声で笑った。
彼女の顔はライトを浴びて、赤と緑を繰り返している。
「好きでも別れるのがいい女だよ」
ぼそっとかけられた言葉は思いの外重くて、私は目を泳がすのに必死だった。
/涙の理由
9/27/2025, 2:42:04 PM