かたいなか

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「優越感は知らねぇ。劣等感はバンバン出てくるわ」
文章を組みながら、某所在住物書きが呟いた。
自分より短く、しかし読みやすい、あるいは面白い文章。ためになる豆知識。もしくは自分より長いのに、自分より読みやすく引き込まれる物語。
それらの投稿が、物書きには劣等感であり、目標であり羨望でもあった。

「ちなみに類似のお題としては、3月26日に『ないものねだり』があったわ。理想押し付け厨な元恋人が元片割れを探すみたいなやつ書いた」
劣等感が「無いものねだり」なら、優越感は何だ。物書きはしばらく考え、答えは何も出なかった。
「優越感ねぇ……」

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は美味しいものが大好き。
稲荷のご利益と狐のおまじないを振った不思議なお餅を作って売って、得たお小遣いでコンコン、たまの贅沢を堪能するのでした。

ところで最近は猛暑に酷暑、やたら暑い日ばかり。
子狐の自宅の稲荷神社では、お米の甘酒と自家製果肉入りシロップを使ったかき氷が結構売れます。
子狐のお母さんが店主をつとめる茶っ葉屋さんでは、テイクアウトの氷出し緑茶がトレンドです。
もう完全に夏真っ盛りの様相なのです。

その日の子狐も何か冷たいものを食べたくなったので、化け狸の和菓子屋さんへ直行。
友達で修行仲間の子狸がいるのです。
最近、2ヶ月3ヶ月に一度ながら、自分の修行成果をお店に出してもらえるようになりました。

甘酒シェークにしようかな、
冷やしゼンザイと抹茶シェークも良いな。
いつぞやの子狸は、こしあんシェークとバニラシェークを混ぜてみたって、言ってたなぁ。
子狐はしっかり人間の子供に化けて、狐耳も狐尻尾もちゃんと隠して、化け狸の和菓子屋さんへ、
行ってみたところ、 例の友達の子狸が、 なにやら劣等感に打ちのめされて バチクソしょんぼりしておって、 ろくにご飯を食べておらず――

――「で、何故私の部屋に連れてきたんだ」
「だっておとくいさん、りょーり、作ってくれる」

友達の子狸が、劣等感に打ちのめされて、ろくにご飯を食べてないので、
子狐コンコン、子狸を連れて子狐のお得意様のアパートへ、ランチを食べに行きました。
『おとくいさん、このお金で、キツネとキツネの友達のためにおいしいゴハン作ってください』
子狐のお得意様はほうじ茶オレを入れたマグカップから口を話して、「え?」の顔。
数秒フリーズして、強引に無理矢理復帰して、キッチンへ向かいました。
『タヌキそばとキツネうどんで良いのか?』
『おにくください。シェークもください』
『シェーク……?』

ひとまず有り合わせの食材で、豚バラと鶏ササミがあったので、揚げ玉とお揚げさんと豚バラのせて、冷やしそうめんを出したお得意様。
ササミは茹でて、お好みで塩レモンなり麺つゆなり。どうとでも食ってくださいなのです。
豚バラと鶏ササミ茹でたお湯で、こんにゃく入りの冷製おつゆを作ってやると、ポンポコ子狸まずそっちから、ぴちり、ぴちり。ゆっくり食べ始めて、
これまたゆっくり、しょんぼり劣等感で落ち込んでいた理由を、話し始めたのでした。

なんでも自分より後に弟子入りしてきた大人狸が、
この子狸より先に上達して、優越感汚らしく、
子狸にマウントを取ってくるらしいのです。
真面目で素直なポンポコ子狸、何度も何度もマウント取られて、しょんぼり、劣等感らしいのです。

子狸の話を聞いたお得意様、数秒また止まりまして、ため息ひとつ、呟きました。
「なんだかウチの職場の話を聞いてるみたいだな」
いつの世も、クソな大人がいるものです。
いつの世も、ファッキンな同僚等々いるものです。
そうなのです。そういうものです。

「ひとまず――」
まぁ、「そういう」相手への対処法であれば、こちらも心得ているさ。コンコン子狐のお得意様、デスクの上のメモパッドを1枚弾いてペン取りました。
「言える範囲でいいし、覚えてる範囲で構わない。
されたことと、そのとき思ったことと、相手がどれだけイジワルな声と顔だったか教えてくれないか。
まとめてやるから、それで問題なければお前の上司にこのメモを見せるといい」

ぽつぽつ、ポンポン。子狸は子狐にも応援されて、優越感と劣等感のマウント事件を色々証言。
記録は「その手の対応」に「非常に慣れてる」お得意様によってまとめられ、子狸が修行している和菓子屋の店長さんに提出されて、
子狸を優越感のままにイジメていた悪逆大人の化け狸は、無事にガッツリ絞られましたとさ。
めでたし、めでたし。

7/14/2024, 3:39:58 AM