稲荷山房

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 繊細なレースがたっぷりと満ちたボンネット、優美で可憐なチュール製のドロワーズ、少し擦り切れた飴色の革靴。物語の中で、ときおりうつくしくひらめく装飾品たちを身につけてみたいと、幼心に思った。

 それで、球体関節人形を買った。
 長く艷やかな金髪を従えて微笑するさまは、さながら本物のようでーーー本物とはなにかと訊かれると、ほとほと困ってしまうがーーーまあ、懦弱で口なお乳臭の私を満たすには充分だった。大枚をはたいて迎え入れた少女は、乱雑な市営住宅の一室に凛として馴染まず対比が効いて、やたらと美しく見えた。
 こんなにも汚れた薄暗い家がこの美しい少女人形が棲み家という不憫が、かえって彼女の清純を露骨に引き立てているようだった。私には何故かそれが最上級の美に思えてならなかった。
 私は精一杯に少女を愛した。
 まるで、理想自己のように。

9/17/2025, 1:18:33 PM