「ただいま」
「おかえり。ご飯あっためるね」
「頼むわ。あと、これ」
持っていた箱を渡すと、中身が何か予想がついたらしく目尻を下げる彼女。漫画の世界なら間違いなく黒目の中にハートがあるだろう。
「ありがとう。開けていい?」
「どーぞ」
「わーい」
そうやって、子供のようにはしゃいで喜ぶからつい甘やかしちゃうんだよな。
「モンブランとザッハトルテだ。どっちがいい?」
「お前の好きなほうでいいよ。チョコのほうだろ?どうせ」
「うん。良くわかったね」
それぐらい分かる。お前はすぐ表情に出るから。好きなものにはとことん素直。俺に向かって笑う時もそう。俺もちゃんと、彼女の“好きなもの”の一部に引っくるめられているというわけだ。
「冷蔵庫入れとくね。あとで一緒に食べよう」
時々。こういう何でもない日を送りながらも不安になることがある。こんなに平和な毎日なのに、いきなり心虚しくなったりする。それは平和ボケしてない証拠なのか、分からないけれど。
ただずっと、こいつと一緒にいたい。願うのはそんなシンプルなことなのに。俺の中では凄く重要で、生きてく上で必要不可欠なことなんだ。
「どしたの?ご飯チンしたよ」
「あー、おう」
だからこの先も、1日1日を、しっかり生きてこうと思う。ケーキ1つでとびきり喜ぶ彼女を大切にしようと思う。彼女が幸せを観じることが、俺の幸せだから。
10/14/2023, 1:41:39 AM