イオリ

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お祭り

 小さな子どもの頃から、近所の祭りには友だち数人で行くが、結局帰りはいつもふたりになる。同い年の隣家の女の子。いつも通り、金魚掬いで取った金魚を1匹ぶら下げて、帰り道を歩く。

 なんでいつもお前ばっかり。俺は一匹も取れなかった。

 なんでかわかる?

 なんで?

 わたしが美人だから。

 なんだそりゃ。

 知らないの? ふふっと、彼女は得意げに笑った。

 金魚すくいのポイって、厚いのと薄いのがあるんだよ。あのおじさん、いつも厚いのわたしにくれるの。美女だから。あんたにはいつも薄いやつ。

 ホントかよ。なんだよあのオヤジ。詐欺じゃねえか。金返せよ。もう絶対やらない。

 まあまあ。  笑いながらなだめられた。

 それにしても、なんで毎回一匹だけなんだよ。ほんとはもっと取れただろ。

 だって増えすぎても困るから。家の水槽、もう結構な数いるから。

 じゃあそいつ、そこの川に流してやるか。

 駄目。

 なんで。

 駄目なんだって。すぐに死んじゃうって。生き物には、きちんと責任持ちなさいってお父さんが言ってた。

 ふうん。じゃあそもそも、金魚掬い、やんなきゃいいだろ。

 うん。そうだね。そうなんだけど。 彼女がぶら下げたビニール袋を寂しそうに見た。

 この子よりもね、うちの子たちのほうが、キラキラしてるんだよ。見たことあるでしょ。

 そうだっけ。

 そうだよ。明日来て見てみてよ。わかるから。

 それが?

 うん。だからね、いつもね、あのおじさんの屋台の金魚見るとすぐにわかるんだ。あんまりきれいな色してないって。あんまりいい扱いされてないって。

 所詮、安い商品ってことか。

 たぶんね。しょうがないよね、それは。だからね、せめて一匹だけでもうちで育ててあげようかなと思って。いっぱいは無理だから。

 そっか。 そこからしばらく無言で歩いた。

 
 よし、じゃあ俺が飼ってやるよ。

 え?

 むかし、メダカ飼ってた水槽あるから。

 でも。大丈夫?ちゃんとお世話できるの?

 大丈夫だって。お前でもできるんだから。

 うん。でも、なんで?

 決まってるだろ。お前のポイであのオヤジの金魚、全部取ってやるんだよ。あいつ、お前には油断してるからな。そうなったらあいつ、破産だな、破産。戦略的な俺の仕返し。

 ハハッと声を出して彼女が笑った。

 でも取ったらちゃんと飼わなきゃな。責任だよな。

 うん、うん、と彼女は楽しそうに笑った。

7/28/2024, 1:49:07 PM