いぐあな

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300字小説

人魚の恩返し

 しくしく……。伯父が人払いをした部屋から泣き声がする。私は鍵を盗んで扉を開けると中の盥に入った人魚の子に話し掛けた。
「泣かないで。海に帰してあげるから」
 伯父は不老不死になる為、友人達とこの子を食べるつもりだ。私は濡れた布で彼を包むと海へと連れ出した。

「……その後、ばあさんは伯父の怒りに触れ、家を追い出されたのだがな」
 そんな祖母を漁師の祖父が助け、二人が結婚して、親父と俺がいる。
「……波間で人魚が尾を振った。海が荒れるぞ」
 親父が漁船の網を引き上げる。それ以来、恩返しか人魚は海で危ういことがあると俺達一家に教えてくれる。
 空に灰色の雲が流れ出す。鈍色に変わった波間に大きな尾びれが白い波飛沫を上げた。

お題「泣かないで」

11/30/2023, 11:23:49 AM