夜も遅くなった、街の駅。仕事終わりのサラリーマンに、制服姿の高校生。ほとんどの人は足早に帰路につく。僕は注意深く人混みを観察するが、馴染みの姿はどこにもない。
やがて人通りはなくなり、駅は静かになった。それでも彼女はまだ来ない。おかしい。とっくに着いてるはずなのに。
電話を取り出し、彼女にかける。
「いつ着く?」
「着いてるよ?」
目を上げて辺りを見回す。彼女はいない。
「改札?」
「うん。券売機の前」
おばあちゃんが1人。ノロノロとお金を入れている。
「〇〇駅だよね?」
「うん。そう書いてるよ?」
「……もしかして東改札にいる?」
『西改札』と書かれた案内板を見ながらそう尋ねる。
「ううん、西改札だよ」
僕は首を捻る。益々謎だ。ひょっとして彼女は異世界の〇〇駅からかけてきてるのか? 馬鹿げた考えが脳裏に浮かぶ。
「目の前に牛丼屋さんが見えるよ?」
彼女の言葉で、一つの可能性に思い当たった。
「それ、もしかして△△鉄道じゃない?」
「え、違うの? いつも△△鉄道乗ってるって言ってたから、てっきりこっちなのかと」
「あー、ごめん。普段使いならそっちの方が便利なんだけど、家からなら□鉄道の方が近いんだよね」
階段を降り駐車場に向かう。軽快な音ともにヘッドライトが目を光らせる。
「すぐ行くから、ちょっと待ってて」
エンジンをかけ、携帯に一声かける。
「わかった。気をつけてね」
そう言って、電話が切れる。
十分後…
△△鉄道、〇〇駅、西改札。こちらの駅もがらんとしている。朝の喧騒が嘘のように静まりかえっている。ただ、そこにいるはずの彼女も見当たらない。
電話を鳴らす。
「もしもし? 着いたけど、今どこ?」
電話越しの彼女は申し訳なさそうに答えた。
「ごめん……お腹減っちゃって、牛丼食べてる……」
『すれ違い』
10/19/2022, 1:34:10 PM