お題『きっと明日も』
「わあぁぁぁんっ! ふぇね、いない……ふわぁぁぁん……」
しまった、ハウレスに頼んでいたけど、気がつかれてしまったらしい。寝室から主様の泣き声が聞こえてきた。早く帰らないと。
控えめに、ごくごく控えめにノックをして主様の寝室に身体を滑り込ませた。そこにいたのは……。
「主様、だめです! フェネスならすぐに戻ってきますから!」
「はうれす、やー! ふぇねす、ふぇねす!」
いや、というのは本気ではない。その証拠に主様とハウレスは日中よく一緒に遊んでいる——ハウレスの腕立て伏せの背中に主様が馬乗りになるという、遊びなのかどうなのかよく分からないけれど、主様が喜んでいるからまぁいいか、といったところだけど。
「あ、ふぇねす!」
俺に気づいた主様のお顔は涙でぐしょぐしょだった。
「ああ、やっぱりフェネスじゃないと添い寝は無理だな」
助かったと言わんばかりに苦笑を漏らし、ハウレスは主様の手を取ってそこに軽く口づけを贈った。
「主様、おやすみなさいませ。どうかいい夢を」
寝室から退出していくハウレスの背中に向かって「ばいばーい」と振った手でもって今度は俺の身体にしがみついてくる。
「ふぇねしゅ、だいしゅき……いっちゃ、やー……」
そのまま寝息を立て始めた。
主様のことはお慕いしているけれど、夜泣きと後追いには少し参るなぁ。
でも、これも今だけだと思うと愛しくもある。
「ふわ……ぁ……」
なんだか俺も眠くなってきた。
おやすみなさい、主様。きっと明日も素敵な一日になりますからね……。
9/30/2023, 2:31:21 PM