欠損品

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白くてもう脈を持たない貴女の横に甘いみかんを添えた

「お母さんがね 私の採ってくるみかんは酸っぱいって 」
「ねえ 甘いのってどうやって見つけるの?」
「実が硬いのはまだ成長してないから酸っぱいの」

教えたあともくるのは変わらず酸味の強いみかんだった
私は彼女の 何を見ていたの

「神経疾患」 貴女が居なくなる前に医者が言ってたの

硬さが分からなかったのは 感覚が鈍かったから
匂いも味も まともに感じられなかったんだ
最期まで 私に嘘をついていたの
喜楽を忘れていく貴女の顔 焦点の合わない貴女の瞳
結び付いたようで 苦しくて 箱を閉じることが出来ない

ああ ごめんなさい 。気付いてあげられなかった

酷い焦げ臭さ 微かな柑橘の匂い
幾ら涙を流せばこの火が消えてくれるのか


フィクション

12/29/2024, 11:08:12 AM