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「終わりなき旅」

「だからアイツらに投票しちゃだめって言ったのに」
あの熱狂の中そんな声はかき消された。独裁者は選挙で選ばれるのだ。歴史はそれを知っているが、学校で歴史が教えられなくなって五十年が経ち、そんなことはもう選挙権を失った高齢者か、地下にもぐった奴しか知らないことだ。

一部の歴史研究者だけは極秘で歴史研究を細々と続けているが、研究費がなくなることが怖くて政府の言いなりだ。そんな奴は歴史研究者を名乗るな。

地下にもぐっていた俺たちには選挙後、「終わりなき旅」という名の追放が待っていた。行き先も滞在時間も自由。費用は政府から支給される。万国どこへでも出入国できるフリーパスポートを持たされ、さあ、とうぞご自由に!というわけだ。

地下にもぐっていたのになぜ捕まったか?そりゃあ、報奨金目当てで仲間が裏切ったからだ。

南の島で楽園気分を満喫するもよし、ラスベガスでカジノ三昧もよし、エベレスト登頂にチャレンジするもよし、紛争地域で戦闘に参加するもよし、何をしてもいいというわけだ。

許されないのは、言論の自由と帰国。持っていた財産はすべて貨幣に換算され、一時金として渡された。それはあくまで自分の財産であって、旅の費用とは別だ。

まあ、いいか。俺を追放したからといって、何代にもわたって地下にもぐっていたわが一族がこのままで終わるわけがない。伊達に歴史研究してたわけじゃないんだよ。

というのは建て前だ。地下は窮屈で退屈で、だが地上はもっとつまらねえ。政府のやってることはちっとも理解できないが、利用だけさせてもらう。「終わりなき旅」を楽しませてもらうよ。

5/30/2024, 12:54:35 PM