学生の話
若干ケガの表現あります
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「〜っ!…いったぁ…」
掃除が終わってから、後は帰るだけとなっていた私。
廊下に水の拭き残りがあったのか、盛大にすっ転んでしまった。
膝を見ると、赤くなっていてすぐアザになりそうな見た目をしていて少し萎える。制服スカートだしこういうの結構目立つんだよね…
しかも擦り傷?というか、摩擦で肌がこう、ずりっとなってるあれが出来ていた。道理でヒリヒリするもんだ。というか、血も若干滲んできてるじゃんこれ。
消毒してもらう為に、とりあえず保健室に向かった。
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「失礼しまーす…」
「こんにちは、どうしたの?」
扉の先にいたのは保健室の先生…ではなく、一人の男の子。靴の色が同じだから、多分同級生だろう。
状況を説明しようとすると、「とりあえずここ座って」と椅子の方に促される。大人しく座ると、彼も向かいに座ってきた。
「とりあえず学年、名前、怪我したとことかこれに書いてね」
すっと差し出してきたのは保健室の利用者記録。久しぶりに書くなこれ。とりあえず項目をつらつらと空欄を埋めるように書き進める。
「あ、転んだのか」
「お恥ずかしいことに…」
「あるよね、俺もこの間帰りに転んじゃったよ」
あはは〜…と恥ずかしそうに笑う彼。
患部を見せるとあらら、と言いながら救急箱を持ってくるために棚の方に向かっていった。
怪我をして心も弱っているのだろうか。そんな彼の背中を眺めていると、なんだか心強く感じた。
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「はい、これで大丈夫」
「ありがとう…」
なんでここにいるの、と聞いたら先生待ってて…と言っていたので、いつもいるような感じではないらしい。
というか、テキパキと手馴れた様子で処置をしている彼は正直かっこよかった。彼いわく、部活で怪我をする人がいるといつも進んでやっているからだそう。それにしても手馴れすぎだよありゃ。プロフェッショナルでしょ。
「…どうしたの?」
彼の動作に感動して彼をぼーっと見ていたら、膝まづいていた彼が顔を覗き込んできた。顔が、近い。心臓がどくどくと動き出しているのは、驚いたせいなのか。
「いや、なんでもない、けど」
「うん、なら良かった」
するとすっくと立ち上がった彼が私に手を差し出してきた。
「そろそろ帰らないとだから、出口まで送るよ」
「いや、でもすぐドアあるし」
「いいからいいから」
少し躊躇いつつそっと彼の手に私の手を乗っけると、ぎゅっと握られて立ち上がらされた。そして扉の前へ──これらの動き一つ一つがまるで王子様のように見えて、初めてこんなことをされた私は少し恥ずかしくなった。更に加速する心臓の音が聞こえない事を祈るように、私も手を握り返す。
「それじゃあ、気をつけてね」
「うん、ありがとう」
手を振ってきた彼に、私も振り返す。
保健室に戻っていく彼の背中を見ながら、ふと芽生えた私の気持ちについて考えずにはいられなかった。
20250209 【君の背中】
2/9/2025, 12:20:53 PM