好きな本
一冊の本と出会った。学校に行く時もバイトの時も誰かと遊ぶ時も寝る時も抱きしめてずっと離さなかった。
時に涙を流して濡れてしまっても、イライラしていて少し破けてしまっても、怒らないでそっと傍にいてくれた。
どれだけ辛いことがあっても自分にはこの本があるから大丈夫だと思った。
ひとつ心配があった。この本は人を選ぶ内容の本で、こんな本が好きなのかと友達に思われるのが怖かった。だから極力バレないように肌身離さず持って、おすすめするのは本好きの信頼出来る友達だけにしていた。
本にも感情があるとしたら。
実は1度捨てられていて、中古屋さんの100円コーナーの隅っこにいた僕を見つけてくれた。
それから何回も読んでくれて、嬉しかった。
ずっと一緒にいてくれるのが嬉しかった。中古屋さんはとても苦しいところだった、毎日誰かを待つ日々で稀に手に取ってくれる人はいるけれど連れ帰ってくれない。元々の持ち主も大事にしてくれていたが僕のことを手放した。最初から居ないもののように扱われて辛かった。1度読んだきり、そのまま。僕には、持ち主が全てだったのに
この子は買ってくれた時からとても大事にしてくれている、ここまで大事にしてくれる人が現れるなんて思ってもみなかった。嬉しかった。信じていいのか、怖くなったけれど破れても濡れても手放すことは無かったから信じようと思った。信じたいと思った。なのに
「何この本…すっごく良かった…」
新しい本が家にやってきた。
本屋大賞候補らしい。友達から借りたそうだ。
友達から借りたからこの子はその子の家に戻るだろう、だから大丈夫と言い聞かせた。
この子の1番好きな本は僕だ。ずっと大事にしてきてくれた
けれど現実は厳しかった。
「この本大好きなの!私の一番のおすすめの本!」
僕の居場所は、本屋大賞を無事受賞した彼女へと移り変わってしまった。友達から譲り受けたらしい。
僕の居場所は彼女の隣から、部屋の隅っこへと変わった。
どんどんホコリが溜まっていく。
上に荷物を置かれたみたいで苦しい、息ができない。
何も出来ない。
「ここにいるよ」
そう伝えたいのに、伝えられない
友達が家に来た時、彼女が本を紹介している姿をみた。
びっくりした、僕のことは紹介してくれなかったのに
ショックだった。
「その本読んでみたい〜、かしてかして!」
「だめ!いちばん大切な本だもん!その代わり他のだったらいいよ、そんなに本ないけど」
「え〜、じゃあこれは?」
「それは〜、ん〜、まあいいよ、オススメはしないけど。あまりいい内容じゃないし」
そっか、そんなふうに思ってたんだね
友達の家に行っても苦しいのは変わらなかった。
上に荷物が乗っている訳では無い、借り物の僕を折れないように、濡れないように丁寧に扱ってくれたけど苦しかった。
ずっと彼女が放った「いい内容じゃない」という言葉が頭の中で反芻していた。
僕がいい子だったら、ずっとあのままで居られたのだろうか。
その子の家に帰ってからも、またいないもの扱いされる日々が続いた。
苦しかった。いつになったらまた幸せだと思えるのだろう。
いっその事古本屋に戻してくれと思ったこともある。でも友達の家に行った時、いまよりずっと丁寧に扱ってくれたのに苦しいのに変わりはなかったからもし奇跡が起きて新しい持ち主ができても変わらないのだろう。
それにまた同じことが起きたらと考えるとゾッとした。
もう一度どん底に落とされるのなら落ちたままの方がダメージが少ない。
あなたは、本を大事にしていますか??
有川ひろさんの図書館戦争シリーズが好きです
もう1冊、おすすめしたい本
凪良ゆうさんの「汝、星のごとく」
読んでみてください( ¨̮ )
6/15/2023, 7:08:05 PM