名無

Open App

大好きな君へ告白したいと思ったことは一度も無かった。でも、僕は君のことがどうしようもなく好きだった。中学の頃はおどおどしてた癖に、高校では明るく気丈に振る舞おうと張り切っていたところとか、ふとした拍子に空を見上げて想い嘆いている様子だとか、そんな些細な所作一つ一つが可愛らしくて好きだった。幼馴染なのに、僕に対してどこか素っ気なくあしらう感じに話してくれる君が好きだったし、僕が告白を匂わせてみたときに目に見えるほどに動揺して、顔を赤らめてくれる君も好きだった。そう、僕は君のことが好きだった。
……だから、泣かないでくれよ、なあ。まさか僕の葬式でこんなに号泣してくれる程に僕を想ってくれていたなんて思いもしなかった。いや、君も僕のことを好いてくれていたことには薄々勘づいていた。だけど、君は令嬢で家に束縛されていたし、周囲からの期待も大きかった。それに引き換え僕の家は貧乏極まりないし、僕自身も特技に秀でていた訳ではなかった。どうしようもなかったなんて言い方は言い訳にしかならないけど、こんな僕が君に告白するなんて身の程知らずだとしか思えなくてしょうがなくって。ずっと告白できなかったんだ。
僕は絶えず棺桶の上で君へ謝罪していたが、君は決してこちらを向いてくれはしない。こんなことをしたって、僕が目の前の君から目を逸らしたことの贖罪にはならないことを僕は知っている。それどころか、余計に無惨な結末が露呈するだけだ。それでも、僕は悔やみに悔やみきれないでいた。
ひとしきり泣いた後、君がうつむきながら歩いて行くのを見ていながら、僕は掛けてあげられる言葉を何も持ち合わせていなかった。

3/4/2024, 12:30:02 PM