須木トオル

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幸せに


私の友達のゆうはとても可愛い。
目が丸くて唇はふっくら。
面白いし品もある。
私の大好きな、友達。


家のチャイムを鳴らすと、ゆうは顔を覗かせて、待ってたと言わんばかりに抱きついてきた。
「ゆう!今日は何してたの?」
「何って、特に何もしてないよ」
「とか言って、楽しいことしてたの知ってるよ」
「何もしてないのに…」
ゆうは話し下手だ。私との付き合いは長いけど、ゆうは自分の話を深くしてくれない。だから私が問いかけるの。
「お絵描き、したでしょ?」
「確かにしたけど…」
「見せてよ。私、ゆうの絵好きなの」
「しょうがないなあ」
机からスケッチブックを取り出して、描いた絵を見せてくれた。
「…うん。綺麗だね」
水彩の柔らかなタッチが心をくすぐる。なんて温かいイラストなのだろう。温もりはじんわりと胸を満たしていく。
「…ゆう、大好き」
「知ってる」
私から抱き寄せると、ゆうが腕を回してきて、より密着する形になる。
「ゆうはどうして"あの日"…」
「その話はしないって、約束でしょ」
「…でも…私…」
"あの日"のことを思い出そうとすると、いつも靄がかかっていた。

あの日、あの暑い夏の日。私は死んだ。
それだけしか思い出せない。

ゆうは一息置いて、こう続けた。
「…わたしたちの幸せのためにって、言ったじゃん」
「ぁ…、ゆう、との?しあ、わ、せ…」
「そう。わたしたちの、幸せのために…」


あの日私はゆうと山に行った。
私達はそこで、幸せに、なるつもりだったのだ。
何もかも上手くいかない私達は似たもの同士で、家族よりも深い絆で結ばれていた。
結果、私だけが先立ってしまったのだけれど。

いつまでも側にいられるのは幸せかもしれないけど、求めているものとまた違う。
こうして、またお盆休みを無駄にしてしまった。

早く、ゆうもこっちの世界に連れてこないと…。



おわり

3/31/2023, 1:09:36 PM