セイ

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【だから、一人でいたい。】

その怪物はニンゲンに憧れていた。
スライムのように自在に姿を変えれた怪物はニンゲンと同じ人型になれるように、たくさん努力した。
長い年月を掛けて人型になれるようになった怪物は大変喜んだ。

ある時はニンゲンのフリをしてニンゲンたちと一緒に暮らし、またある時は住処の近くの村を守ってニンゲンと友好関係を築いたりした。
大好きなニンゲンと時を過ごし、怪物は幸せだった。

ニンゲンより頑丈で遥かに寿命の長い怪物は多くの別れを経験した。
大災害で住処の近くにニンゲンが居なくなった時、怪物はたくさん泣いた。
良くしてくれたニンゲンのことを忘れぬように、いつ戻って来てもいいように、怪物はかつてニンゲンが居た地を守り続けた。

それから何百年か経ったある日。
怪物の願い通り、ニンゲンは怪物の守り続けた地に戻って来た。
怪物は再びニンゲンと暮らせる日々が来たのだと喜んだ。

嬉しくなった怪物は人型になるとニンゲンの所へ出掛けた。
また昔のように友好的な関係を築けると信じていた怪物だったが、ニンゲンからは酷い扱いを受けた。
ニンゲンに取って怪物は怪物。
例え人型だろうが、友好的だろうが、ニンゲンからしたら危険な存在に変わりはない。
怪物は邪悪な存在として多くのニンゲンから命を狙われた。
怪物は訳が分からないままニンゲンと一定の距離で接し続けた。
自分が傷だらけになっても、死にかけても、ニンゲンを1度も傷つけようとはしなかった。

数十年後。
再び大災害が起こり、怪物を傷つけていたニンゲンたちは何処かへ消えた。
怪物は自分を傷つける者が居なくなった喜びと大好きなニンゲンとまた別れてしまった悲しみの混ざった感情を抱えた。

ニンゲンに憧れ、ニンゲンを愛していた怪物は心に酷い傷を負った。
怪物はニンゲンと関わるのをやめた。
あんなにも一生懸命に練習した人型になるのもやめた。
それほど、怪物は追い込まれていた。

時折、怪物の住処に迷い込んだニンゲンの子供や旅人がいた。
彼らは一定の距離を保って話そうとする怪物のことが気になったのか、怪物の昔話を聞いては共存の道を示した。
だが怪物は毎回悲しそうな目で首を横に振る。

「ニンゲンとは共存する気はない。それに…私はもうそんなに長くない。だから、一人でいたい。…静かに、過ごしたいんだ」

老いた怪物は会ったことは他言無用だと強く言い聞かせ、彼らを毎回近くの村まで送っていった。

そして数百年後。
誰よりも優しい怪物はひっそりと目覚めることのない眠りについたのだった。

7/31/2024, 5:26:40 PM