粉末

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海。見覚えのない海。人はいない。
「こっちだ。行こう。」
いつのまにか隣にいたこの人は僕の手を取って
どこかへ連れて行こうとする。僕の答えを待たずに。
辺りは木、木、葉っぱ、よくわからない派手な花。
勝手知ったる庭のようにどんどん先に進んで行く。
先導するこの人はシャツの袖を捲ってボタンはひとつも留めていない。森に入る格好じゃないでしょ。
「どこ行くの。」
やっと声が出た。言いたいことはいろいろあったけど何故かこのひとことしか言えなかった。
「楽園だ。」
ちらとだけ僕を見て笑った。


「おや、おはよう。」
…ああ夢だったのか。変な夢。海なんか行ってないし見てもいないのに。いや今はそんなことどうでもいい。
「もしかして昨夜先に寝ちゃった?」
「ああぐっすりな。疲れていたんだろ。」
「ごめん。」
「うん?謝らなくて良い。怒っていないよ。」
やっぱりな。ああこんなこと初めてだ。
「ごめん。…変な夢を見た。南の国みたいな所であんたが楽園だかに連れて行こうとするんだ。」
「はは。面白いな。いつも楽園に連れて行ってもらっているのは私の方なのに。」

あんたいつもそんなこと思っていたの。
じゃあ今夜こそ行こう。


楽園

5/1/2024, 7:57:36 AM