300字小説
雪が降ったら
『雪が降ったら迎えに参ります。それまで、お待ち下さい』
別れ際の彼の言葉がお別れの言葉だったことに気がついたのは追放先の地に着いてから。この北の地は寒いが、湿度が低く雪は降らない。そして。
彼が学友のマリーと結婚したという知らせが届いた。
吹きすさぶ風の中、私は失意のまま胸に短剣を突き立てた。
雨が多かった今年、学友のクララ様がいる北の地にも雪が降ったと聞いた。追放が決まったとき優しい彼女は夫の為に身を引いたと聞いている。
「クララ!」
庭から夫の叫び声が聞こえる。駆け付けるとクララ様が彼に抱き着いていた。
「待っていた雪が降りましたのよ。さあ、御一緒に」
悲鳴が響く。ちらつく雪の中、二人の姿が消えていった。
お題「雪を待つ」
12/15/2023, 12:01:19 PM