燈火

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【神様が舞い降りてきて、こう言った】


生死の境にいる人間には死神の姿が見えるらしい。
それが本当なら、私の命が尽きる日も近いのかな。
扉を開けると、窓の外にかつての想い人の姿があった。
地上四階に位置する病室を窓から訪れる人はいない。

人間でないなら誰だ、って。姿を借りた何者かだろう。
「私、死ぬんですか?」尋ねてみても彼は答えない。
ただ光のない目でじっと私を観察している。
体が透けているように見えるし、幻覚かもしれない。

寝て起きても、彼はこちらに目を向けている。
医師にも看護師にも見えないようで正気を疑われた。
検査までされたけど、どこにも異常はない。
私の精神がおかしくなければ、彼の存在がおかしいのだ。

彼を見て抱いた予感に反して、退院することになった。
自宅への道を一人歩く私の隣を彼は浮いて移動する。
明らかに普通でないのに、通行人が振り返ることはない。
やはり彼は私にしか見えず、なんだか気味が悪い。

いっそ幻覚だと思って生活していたある日、聞こえた。
「言えばよかったな」そういえば、こんな声だった。
振り向けば、しまったと言いたげな顔で口を塞いでいる。
ついに声まで聞こえるようになったみたいだ。

いよいよ死期が近づいているのかもしれない。
思えば彼の姿を見てから今日でもう一ヶ月になる。
青信号を渡る私の真横で、クラクションが鳴り響いた。
突っ伏す運転手。とっさに目をつむったが衝撃はこない。

電柱にぶつかった車のブレーキ痕は変な軌道を描く。
「ダメだよ、人の運命に関与したら」ふいに影ができる。
空から降ってきた誰かが彼を指さして振り下ろした。
直後、消えてしまった彼は、満足そうに微笑んでいた。

7/27/2023, 1:02:25 PM