フグ田ナマガツオ

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伝えるために何度も言葉を選びなおして文を綴るけど、どれだけ時間をかけても十分じゃない気がして、渡せないままだ。
だから100回書き直した手紙をなくした私は、先に読まれないために、話したことのないクラスメイトに声をかけて、一緒に探してもらっている。

「図書室のパソコンって、利用者の記録とか残ってないんだっけ」

私の問いが誰もいない図書室に小さく反響する。ミステリーの棚から本を取り出しては捲り、ため息をついてまた戻す。挟まっているとしたら、この辺だと思うんだけどな。

「記録はもちろんしてるんだけど、これも個人情報だからね。顧問がサイトのパスワードを管理してて、僕は開けない。柊木さんは覚えてないの?その本を読んだの、ここ1ヶ月なんでしょ?」

恋愛小説の棚を探る手を止めずに篠塚は言う。葉の沢山茂った木が風にあおられてざわめく様な静かな声だった。その言葉を聞いて、私は少し悲しくなった。

「私、1日3冊くらい借りるからどれを読んだか忘れちゃうんだ。覚えていればよかったんだけど」

沈黙が降りて、紙を捲る音と本棚と表紙が擦れる音が聞こえる。早く見つけないとと思うけれど、なかなか出てこない。

「恋愛小説ってどういうところが面白いの?」

抑揚ない口調で篠塚が言う。馬鹿にされているのかと邪推したが、表情を見るにただ疑問を口にしただけのようだった。篠塚は純文学とミステリしか読まないから、単に他のジャンルに興味があるのだろう。

「どういうところがって言われると難しいね。」

私も元々は恋愛小説しか読まないタイプ

10/27/2023, 10:21:14 AM