幸せそうな姿が、欲しい。
「いいなあ、ロング。羨ましい」
友人の髪を撫でながら、ふと本音をこぼしてしまった。別に、失言というほどではないのだけれど、変に焦ったような気持ちになる。
「由佳もロングにしたらいいじゃん」
自分の焦りに真っ向から向かってきた回答だった。ある意味、ベストアンサー。けれどそれは言って欲しくない言葉でもあったため、「んー確かに」と適当に視線を逸らした。
「由佳、ロング似合うと思うよ。私ずっと前から思ってた」
「んー…ありがと」
「伸ばしてみたら? とりあえず、ボブくらいとか」
「そうだねぇ…考えとく」
運動部ほどではないが、私のショートヘアは、友人の菜々美から見れば、やはり似合っていないようだった。似合っていないとは言われないが、自然とそう言っているように聞こえる。現に、いろんな人からそう言われるし。私だって、とっくの昔からそう思っている。
「ショートの女の子かわいいけどね。あ、はるちゃんとか。はるちゃん、ショートめちゃくちゃ似合ってるよね。めっちゃ可愛い。コウキくん、はるちゃんがショートにしてから告ってたし、顔が小さい子がショートしたら勝ちだね」
菜々美がなんだか訳が分からないくらい楽しそうに、教室の真ん中にいる同じクラスの少女へ視線を向ける。はるちゃんと、みんなに呼ばれる彼女は、私と同じショートヘアだった。私と似ても似つかないきれいなショートヘア。菜々美はそう言いたいんだろう。
菜々美も、誰もかも、私がショートにしている理由も気持ちも分かっていないのに、なんだかもう…本当にむしゃくしゃする。ずっとずっと、あの子のこととか、あいつのことも、ないものねだりな私も、全部全部嫌になる。真っ白から真っ黒になっていく私の心は誰も気付いてくれないんだ。
ねえ、みんな、
「ね、由佳」
気付いてよ。
「…そうかなあ、はるちゃんロングの方が似合ってたけど」
冷めた顔して笑う私は、やっぱり、救いようがない、この中で最も汚い代表者なのかもしれない。
この菜々美のきれいなロングも、はるちゃんの似合っているショートヘアも、彼に告白されたはるちゃんも、みんなみんな、何もかも羨ましいんじゃなくて、幸せそうなのが、満足そうな姿が、たまらなくうざったらしく、
なんていうか、ええと、なんていうか…
「嫌いだなぁ」
その呟きは、菜々美に聞こえていなかったようで、私は特に安堵することなく、開かれている扉の先の廊下に目を向ける。
ショートヘアが好きなはるちゃんの彼氏は、今日の昼休みは通らなかった。
ないものねだり/はるちゃんの彼氏のことがずっと好きだったり。
3/26/2023, 2:54:43 PM