【手を取り合って】
茹だるように暑い夏の日だった。目に痛いほどに青い空に、真っ白い入道雲がぽっかりと浮かんでいる。じいじいと五月蝿い蝉の声が、暑苦しさを更に増していた。
ギコギコと錆びついた音を立てて、君は腰掛けたブランコを揺らす。空虚な眼差しで濃い影の落ちた地面を見つめている君の、玉のような汗の伝う頬には、真新しい痣がくっきりと刻まれ、痛々しく腫れ上がっていた。
過干渉で気に入らないことがあるとすぐに手を上げる親の元に生まれた君と、一切の関心を子供に向けようとしない親の元に生まれた僕。食事代として机の上に置かれていた数枚の千円札を、ポケットの中でくしゃりと潰した。ぐう、と僕のお腹が空腹を訴え小さく鳴る。
「大丈夫?」
弾かれたように君が顔を上げる。自分のほうがよっぽど大丈夫じゃないくせに他人の心配ばかりする。そんな君の優しさが心配で、腹立たしくて、愛おしいんだ。
「ねえ、一緒にここを出よう」
なるべく笑顔で、君へと手を差し出した。骨張った手は醜くて、少しだけ恥ずかしい。それでも君だけは僕の不恰好な見た目を笑うことはないと、そう知っていた。
机の上に毎朝置かれている食事代。食事量を抑えて、必死にそれを貯金し続けた。君と二人でこの町を出て、どこか別の場所で生きていく、そのための資金を得るために。
でも、と。喘ぐように呟いた君へと、浮かべた笑みを深くする。大丈夫だよと安心させるように。
「君を殴る大人も、僕を邪魔だって無視する大人もいない世界で、一緒に生きよう」
夏だというのに長袖を着た君の手が、恐る恐る伸びてくる。僕の指に触れた瞬間に怯えるように引いたその手を、ぎゅっと握り込んだ。そうすると君もようやく、僕の手を握り返してくれる。
二人きり手を取り合った、暑い暑い夏の日の話だった。
7/15/2023, 1:43:16 AM