せつか

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列車の旅というのは不思議だ。
肘をついて流れる景色をぼんやり眺めていると、様々な思いが湧き上がっては通り抜けていく。

これから向かう目的地への期待と不安、流れては去っていく景色への感嘆と興奮、そして故郷への郷愁――。
一人で列車に揺られていると尚更そんな事を感じる。
パートナーなり友人なりがいたらまた違ったものを感じるのだろう。そもそも仲間がいたら、彼等との会話や体験に夢中で考え事をする暇も無いのかも知れない。
·····いや、分からないな。
旅といえば一人旅がほとんどだった私には、誰かと共にする旅の感慨などというものは、想像の範囲を出ない。
よく人生を旅に例える事があるが、だとすれば私の人生は決して一人旅などでは無かった。むしろ多くの人に支えられ、多くの人と共に歩いた人生だった。
私が不意に旅に出ることを思い立つのは、一人になりたいからなのかもしれない。

列車は速度を落としていく。
そろそろ終点だ。
小さな港町だという。観光地でも何でもないそこには宿は一軒しか無い。時間と金には余裕があった。飽きるまでその宿で過ごして、町をぶらぶらして、私は私の旅を終わらせるつもりだ。

コンクリート造りのホームが見えてくる。
終点のその駅は無人駅だった。
列車が軋んだ金属音を響かせて止まる。
ホームに降り立つと冷たい風が頬を撫でて、私は思わず肩を竦める。
ちらちらと、細かな雪が降り始めていた。


END


「終点」

8/10/2024, 4:05:06 PM