無垢
「世話係のベルでございます」
私の前で綺麗なカーテンシーを決め、人形のような顔をした彼女。
やさしそうなひと。
「これからよろしくお願い致しますね」
ねぇねぇ、ベル?
「あらあらお嬢様、お菓子が美味しいのは分かりますが、お口を拭きましょうね」
…んふふ…!私、ベルだいすき!
思えば、最初から変だった。
ねぇ、ベル、どうして私は
「…あら、もうこんな時間。ピアノのレッスンの先生がいらっしゃるわ。支度をして来ますね」
…あれ?
まるで、呼び止めるために伸ばした手を巧妙に避けられているような。
ベル、私は…
「ッ…!ああ、なんてこと!フランがお庭を荒らしていますわ!少々お待ちください」
……。
私の嫌なところなど、一欠片も見たくないと言われているような。
ねぇ、ベル、私はどうして、今までこの家から1歩も外に出ていないの?
教えて、誰か。誰か……?
私はベルしか知らないのに?
だだっ広い庭で1人のメイドが立っている。
力仕事を終えたにも関わらず、どうしてか吐く息は一定である。
「ええ、ええ、お嬢様。私は優しいでしょう?」
人形のような口が弧を描く。
「いつまでも無垢なあなたで居てくださいな」
5/31/2024, 12:38:50 PM