明永 弓月

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 放課後、人の少なくなってきた校舎。吹奏楽部の練習の音が聞こえる。部活動に参加しない生徒は帰宅し、部活動中なので人の出入りがほとんどない昇降口でひとり、空を見上げていた。
 小雨であればそのまま帰宅の途についただろうが、そうするには少し強い雨。当然手元に傘はない。
 教室はもう鍵が掛けられている。図書室に向かうことも考えたが、おそらく直に止むだろう。空の様子から推測する。十数分のために図書室へ行くことすら億劫な自分に脳内で苦笑する。

 ――小説や漫画ならここで好きな人が通りかかる等のイベントが起こるのだろうな。
 時間を潰せるようなものも持たず、軒先から雨の降る様を見ている。好きな人はおろか、気になる人もいないので通りかかる人は友達がいいところだ。彼らも帰宅しているか、部活動中かのいずれかだから、こんなところで出会すはずもない。
 たとえば、好きな人とふたり、雨が止むのを待っているとしたら、どのような会話があるのだろう。折り畳み傘を持っていることを隠して、その時間を過ごすこともあり得るのだろうか。
 雨が止むまでの僅かな時間。空想に耽ってみる。

8/28/2024, 3:30:45 AM