悪役令嬢

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『カラフル』

「こんばんは、お嬢様」
夜風に揺れるカーテンと窓辺に佇む黒い人影。

「魔術師、ご用件は何ですの?」
悪役令嬢が声をかけると、魔術師は微笑みながら
見慣れないお菓子の箱を取り出しました。
「紅茶のお供に茶菓子をご用意いたしました」
「結構ですわ」
きっぱりとした口調で断る悪役令嬢。

「主、お茶をお持ちしました」
「お嬢様、探してた本が見つかりましたよ!」
そこへ執事のセバスチャンとメイドのベッキーが
やって来ました。

「セバスチャン、お菓子はいかがですか?」
眉をひそめて、箱の中身を覗き込むセバスチャン。
「これは一体…」
「百味ビーンズ。色んな味が楽しめるお菓子です。
君もおひとつどうですか?」
魔術師がベッキーに話しかけると、
「えっ、いいんですか?!
じゃあ…あたし、これいただきます!」
好奇心旺盛な彼女はエメラルドグリーンの
ビーンズを受け取りました。

「べ、ベッキー…大丈夫ですの?」
「はい!爽やかな甘酸っぱさが口の中に広がって
美味しいです!」
「ベッキーが食べたのは青りんご味ですね」
お菓子の箱に添付された説明書を読むセバスチャン。

「セバスチャンさんも食べてみてください!」
「…では、俺はこれを」
ベッキーに促されたセバスチャンは、
蛍光色のビーンズを摘んで口に含みました。
「レモンの味がします」

「さあさあ、お嬢様もどうぞ」
にこにこと笑みを浮かべる魔術師に押し付けられ、
嫌々ながらも箱を受け取る悪役令嬢。

青りんご、レモンと無難な味が
続いたならばきっと大丈夫ですわ。
悪役令嬢は斑点の入った
橙色のビーンズを取り出します。
おそらくこれはオレンジ味。

口に入れた瞬間襲ってきたのは、
胃酸を思わせる酸っぱさ、苦み、ちょっとした辛味。

まずい。
飲み込めないほどまずいですわ。

口元を押さえながら震える手付きで
ティーカップを掴むと、紅茶と一緒に
無理矢理流し込みました。

「こ、これは何ですの」

後ろめたそうな顔で
セバスチャンがそっと口を開きます。
「主が食べたものは…ゲロ味です」
げ、ゲロ味ですって??

「お嬢様!どうやら当たりを引いたみたいですね。
おめでとうございます笑」
隣でくすくすと笑う魔術師を見て苛立った悪役令嬢は、
「人に食べさせておいて、
あなたが食べないのは不公平ですわ!」
とクリーム色のビーンズを摘み
彼の口へ押し込みました。

驚いた顔をして、彼女の指先ごと口に含んだ
魔術師は神妙な面持ちで俯きます。

「お味はいかが?」
「…甘みの中に苦みが混じっていて、
何ともいえない味です」
「セバスチャン、説明書を読んでちょうだい」
「はい主。オズワルドが食べたのは、耳くそ味です」
「オーホッホッホ!ざまあごらんなさい!
私を笑った報いですわ!」
高笑いする悪役令嬢の横で首を傾げる魔術師。
「でも案外いけますよ」
「えっ」

それから四人はゲテモノ味に怯えながらも
何だかんだ百味ビーンズを楽しみましたとさ。

5/1/2024, 3:05:03 PM