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『君と見た虹』

 国力が世界最大と言われている国、アースドアレス。そんな国と戦争をしているのが私達が守ろうとしている国、ユメミヨスガ。

 敵も味方も、大体の人間がアースドアレスの圧勝で幕が閉じると予想していた。あの日を境に復讐に燃え、訓練を続けてきた私以外は。

 師匠をあいつに殺された時に私は誓った。必ず復讐してやると。味方がどれだけいなくなろうと、例え私以外の全員が諦めようと、私だけは必ず食らいつくと決めた。

 でもその誓いも、もう要らない。

 この戦争は実質二人の人間によって均衡が保たれていた。そのどちらかが崩れれば自然と形勢は傾く。

 あまり言いたくは無いがその一人は私。そしてもう一人はアースドアレスの第一王女、カナ・レストアート。

「あ……っはは」

 そのカナは今私の隣で腹部から血を流して笑っている。無論、この剣を刺したのは私だ。

 それは戦争の終結。私達の勝ちを意味する。

 カナの白いドレスは雨と泥により元の姿は無い。勿論、彼女のドレスには赤い色もあった。

「……なんで笑っているの。貴女は負けたんだよ。この世界に魔法なんてものはない。じきに死ぬ」

「だから……笑っているんだよ……」

 私の言葉を聞いても彼女は笑みを崩さない。これから死ぬというのはわかっているだろうに、それでも。

「虹が……綺麗だなぁ……って。最後に見れて……良かった。好きなんだよね……」

 先程まで降っていた豪雨はもう見る影もない。雨の降った空には虹がかかっていた。

「私はね……君と、小夜と、もう会いたくなかったんだよ」

「ッ!」

 彼女の言葉に胸がズキンと痛む。泣きそうになるのを堪えていると、カナはまた儚い言葉を紡ぐ。

「君と会うと……銃を持つ手が……震えるんだ。どんなに屈強な男にも、化け物にも……動じなかった私の手がね」

「ッ!」

 彼女が言葉には私にも覚えがあった。だからこそ混乱する。私と同じな訳無いのに。

「……なんで」

「……あはは。それを……言わせるの? まあ最期だから……良いけどさ」

 カナが口を開こうとした時、彼女と私に光が差す。カナはそれに嬉しそうにまた笑い、私にその言葉を言った。

「愛してるから……だよ。君をね。……あっちで待ってる、から……その時に返事を聞かせてくれると……嬉しいな」

「…………」

「ついでに……私の銃も……頼むよ……嫌じゃなかったら……使ってくれると嬉しい……な……」

 カナの瞳から光が消える。だが瞳はまだ輝いていた。太陽が彼女を見ている事に何故か心底腹が立つ。

 笑顔も無くなった彼女の視線の先には虹があった。

 私はそっと手を握る。

「……私もだよ、カナ。すぐにそっちに行くから、その時に言うよ」

 カナと普通に出会えていたら。

 朝に挨拶を交わし笑いあったり、たまにデートをしたり、手を繋いだり、一緒に寝たり、結婚をする未来もあったのかな。

 彼女の愛銃と私の剣を持ち、片手で隣で目を閉じている人の手を握る力を少し強める。

 師匠の仇を討ったはずの心はこんなにも痛い。カナと初めて会った時の殺意も、怒りも今は無い。

 何回も戦場で出会い、彼女の優しい所を知った。おしゃべりな所も、少しお茶目な所も、優しい所も、私を愛してくれていた事も、辛い過去も、知った。

 師匠、ごめんなさい。仇は討ちました。討ったのに、涙が止まらないんです。こんなにも私は彼女に染まってしまった。

 なら、今度はカナとの誓いを果たそう。こんな戦争を終わらせ、またここに来て、彼女が使っていたこの銃で会いに行く。想いを最期まで貫き通す。


「必ず返事をするよ。だからそれまで待ってて」

 今度は私が笑顔を浮かべる。覚悟の証明として、捧げよう。

「また虹を見よう? こんな風に手を握ってさ、また笑顔を見せてよ。その為なら私、幾らでも頑張ってみせるから、ね?」

 君《カナ》と見た虹はこんなにも綺麗で、痛い。


 

2/23/2025, 8:48:07 AM