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ブランコ

活発そうな大きな目に栗色の髪の小さい男の子が僕を連れ去った。
いつも一緒だったあの子はきっと心配していたと思う。もしかしたら僕がいなくなってからあの子はきっと街中を探し回ったのかもしれない、なんて自惚れなのかな。
なんでも話してくれたからたぶん1番あの子のことを理解していたのは僕だろう。隣の席のゆりちゃんが好きとか、けんたくんと喧嘩したとか。お母さんに言えないことも話してくれた。もう何十年か前のことだと思うけど今でも君の記憶に残っていたら嬉しいな。

僕を突然連れ去った男の子は僕のことを女の子だと思っていたのだろう。まあ別に気にしないけど外で遊ぶ方が僕は好きだからどこかへ連れて行って欲しいなんて考えながら、その遊びに付き合っていた。外に出ればあの子に見つけてもらえるかもと思ったのは心にしまっている。
年月が経つにつれてほとんどおうちで留守番することが増えていった。男の子の成長を見守っているのは退屈ではなかったし、何よりずっと大事にしてくれていることが誇らしかった。

そのまた何十年後男の子だったこの子は大人になって、また遊び相手が小さい男の子になった。この子は僕を食べ物だと思っているのか涎だらけにする。くすぐったいなと思いながらも可愛くて仕方がなかった。この子のお父さんは週末、近所の公園へこの子を連れて遊びに行く。僕も一緒に連れて行ってくれるから今のところ退屈はしていない。

いつものように夕暮れ時もう帰る時間だよとお父さんが呼ぶ。でも夢中で遊んでいたこの子は僕を置いて走っていってしまった。
まって!!!
僕は大声で呼んだけどもう遠くに行ってしまって聞こえない。
また誰かのところに行くのかな
憂鬱な気分でブランコに座っていると下から勢いよく持ち上げられた。

「ねー!わすれてるよーー!」

少し高めの女の子の声がした後、こちらへ走ってくる足音が聞こえる。後ろ向きで持たれているから前は確認できないけどたぶんあの男の子がお父さんと戻ってきたんだと思う。

「ありがとう!」

嬉しそうな声で抱きしめられる。
正面を向いて僕は驚いた。
女の子のお父さんが僕を見て懐かしそうに笑っている。
いつも恥ずかしそうに僕に秘密を打ち明けてくれた時の面影を残して、少し寂しいような嬉しいような、そんな目をしていた。

確信ではないからこれは僕だけの秘密。
なんだか隠し事は悪いことのように思えるけど僕は幸せだ。
こんなに大事にされてまたあの子に会えたんだから。

2/2/2024, 5:22:06 AM