すゞめ

Open App

====================
いつもありがとうございます。
最近、露出が多くて申しわけございません。
しっとりさせたかっただけなので、雰囲気だけです。

苦手な方は「次の作品」をポチッとして自衛をお願いいたします。
====================

 熱のこもった夜から、荒んだ空気を孕み始めた秋めいた夜。

 まるで飼い慣らした猫のように、彼女は無防備に体をしならせた。
 気まぐれに身を委ね、強かに主導権をあけ渡す。
 全て無自覚だから咎めることもできなかった。

 とっくに汚れた自身の手で、彼女に触れることはいつまでも怖かった。

 それでも、彼女を手に入れたい。

 この真っ黒に塗れた純粋な想いだけが、俺を繋ぎ止める。
 真っすぐ歪んで、解けて拗れた。

 とっくに堕ちているのに、とっくに戻れないところにきているのに、さらに深い泥濘へと落とされていく。

「……愛しています」

 こんなにも心を焦がしているのに、言葉にするそばから熱が冷めた。
 どうすればこの熱さが彼女に伝わるのか。
 じっくりと時間をかけて汗ばみ、火照り、湿度を高めた素肌で、抱きしめ合う互いの体温は無情なまでに平熱だ。

 ただ、欲を含んだ彼女の涙珠は温かく、その事実に救われる。

 ふわり。

 言葉の代わりに微笑むだけで、彼女は俺を満たしてくれる。
 彼女のシトラスの香りに、柔らかな甘みが加わっていた。

 目を逸らす間もなく、季節が移ろいでいく。
 夏の陽炎を、不安定に揺れ動く秋がさらっていった。

   *

 優しすぎるくらいに丁寧な手つきでベッドに私を横たえた。
 眼鏡を外して、キスをして、抱きしめる。
 熱を持った彼の肌は隙間なく私と重なっているのに、今日は彼の声が遠かった。

 彼はいつも忙しそうにしている人だ。
 春は気怠げに、夏は物憂げに、秋は儚げに、冬は寂しげに頭を悩ませている。

 文句のひとつでも言ってやりたいが、それは適わなかった。

 彼によって溶かされた思考は既に使い物になっていない。
 与えられる刺激が強すぎて呂律もうまく回らなかった。

「……愛しています」

 私も……、好き。

 伝えなければと思うのに、言葉として音を震わすことができなかった。

 うわごとめいた褒め言葉と愛の言葉が、微弱の毒となって全身を痺れさせる。
 逃げる理由も拒む理由もなかった。
 ただ、隠していた本心が涙に変わってこぼれ落ちる。

 見透かした彼がその涙を唇で掬い取った。
 くすぐったくて身を捩ると、彼の唇が耳元へ移動する。
 いつもよりつまった吐息、火照った唇、容赦のない舌で薄く皮膚を吸われた。

 軽い痛みが走った瞬間、わずかに硬直した彼の体。
 スン、と鼻先を近づけた。
 少しだけコロンを振ったことも暴かれてしまう。

「夏も終わりか……」
「……っ」

 いつものコロンに少しだけ金木犀の香りを足したくて、新しく調合してもらった。
 こんな些細な香りまで気づかれるとは予想していなくて、気恥ずかしくて顔を背ける。

「かわいい」

 今まで遠かった彼の声が急に近くなった。
 つい彼のほうに向き直ってしまうと、滅多に動かない彼の表情が、柔らかく緩んでいる。
 そのくせ、私を真っすぐ見つめる目には強い熱を宿していた。
 慈愛と色気が合わさった彼の表情に胸が締めつけられる。

「や……っ」

 わかりやすく動揺した私の失態を、彼が見過ごすはずがない。
 彼の表情や声や手つきが、徐々にからかいの色を帯びていった。


『秋色』

9/19/2025, 3:26:15 PM