スリル。やはり長くなってしまいました…。
東京で学生をしていた頃、時々夜、皇居外周を走った。
半蔵門の辺りから緩やかに下っていくと、丸の内のビル群の明かりが見え、絶え間なく流れていく車のテールランプが田舎者の私の目には美しく映った。
しかしそれよりも好きなのは、最後にやってくる暗く静かな遊歩道だった。
すれ違う人はほぼ無く、明かりも見えない。緑の匂いが濃いので束の間、田舎の夜に帰った気になる。
女一人には心細いその小さな暗がりを走ることに、私は少しのスリルを感じていた。
その夜は年の暮れも押し迫って寒かった。
いつものように半蔵門から走り、遊歩道にさしかかったが、その日は一段と暗く、
人の気配が無いかわりに黒々とした木々の存在感が強かった。
今日は早くここを抜けたい。直感的に足を早めた時、
前方にぼんやりと赤い光が浮かんだ。
ゆらゆらと揺れているが懐中電灯や自転車ではない…
火の揺らぎだ。
どうも、提灯を持った人が歩いてくる。
気味が悪くなって引き返そうかとも考えたが、
ええい、仕方ないとその火に向かって走った。
どんどん近づく。
一人では無い、集団のようだ。
ボソボソとした話し声がする。
全員、ロングスカートだろうか…袴…?
そう思った瞬間にすれ違った。
古い畳のような匂いが鼻をかすめた。
一人の男の横顔がちらと見えたが、頭頂部を剃り、
髪を結ってある。
どの人影も私と同じほどの大きさしかなかった。
私は150センチである。
振り返らず走り、半蔵堀まで来た。
堀は深い底なしの谷のように感じられた。
スリルとは、自分の力が及ぶ範囲において感じられるもので、その範疇を飛び出てしまうと恐怖に変わると知った。
だいたい皇居って昔の江戸城だもんなー。
仕方ないか。
11/13/2022, 6:00:29 AM