かたいなか

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「上手くいかなくたって、気にしない。
上手くいかなくたって、比較的いい部類には入る。
上手くいかなくたって、いい縁は巡ってくる。
……どれも良い案が出てこないんだが?」

一旦即興でひとつ文章①を投稿しておけば、たとえそれが上手くいかなくたって、
編集→全消し→再投稿によって数時間後に別の文章②を投稿できるのだから、いい。
そう思っていた時期があった某所在住物書きである。
問題は②の投稿前に、納得できないままモヤモヤを抱えた①が己のアカウントで表示されること。
「書ける」物では、あるだろう。
それは「書きたい」物だろうか。

「即興で今書けるっつったら防災関連だがな」
物書きはもっちゃもっちゃ、ピザをかじる。
「正直なハナシ、『今』、お前、防災系の話題とか摂取してぇかよ、っつー自問よな」
ところで今日は8月10日。ハットの日らしい。

――――――

リアル法則ガチ無視のおはなしです。難解なお題に対する苦し紛れなおはなしです。
都内某所の稲荷神社に、不思議な不思議なお餅を売り歩く不思議な不思議な小狐が、神社敷地内の一軒家に、家族で住んでおりました。

そこの一家の大黒柱、人に化けて某病院に勤め納税までしている父狐が、どうにもこうにも料理下手。
母狐の家事負担が少しでも軽くなるよう、買い出しゴミ出し役所手続き、掃除洗濯にハーブガーデンのお手入れも、そつなくこなす家事パパですが、
天は父狐に料理スキルを与えなかったらしく、煮ては煮溶けて吹きこぼし、焼いては焼け焦げまれに炭。
そのたびカンカン母狐に、仁王立ちと畳に正座で、食材の大切さをよくよく教え諭されるのでした。

上手くいかなくたって、いいのです。
ちょっと下手に料理したって、構わんのです。
自分で食べるだけならば、自分で食べられる程度に調理さえできれば。
だけれどコンコン父狐、火を使う料理「だけ」は、完全に炭焼き職人なのでした。

それを子供ながらに見てられなくなったのが子狐。

「ととさん、ととさん、おこげどう?」
「大丈夫だよ」
「ホントに?ホントに大丈夫?」
「大丈夫。ほら、見てごらん」

今日も自分のお弁当を、自分でつくる父狐。
子狐コンコン、今日は父狐が母狐の前で正座しなくて済むように、ずっと隣で見ています。
どうしても、父狐の料理が不安なのです。
先月も、去年も、その不安を抱いて、結局見て見ぬふりをしたところ、火災報知器が鳴ったのです。
あの頃の不安を今日繰り返さないため、コンコン子狐は心を子鬼にして、しっかり父狐を監視するのです。

上手くいかなくたっていいのです。
ちょっとくらい焦げたって、構わんのです。
炭になる前にレスキューして、父狐が食べられる程度に留めておけたら、食材は無駄になりません。

結構強火なコンロの上には、油が跳ねるフライパン。消費期限間近の半額お肉がじゅーじゅー鳴きます。
「ととさん、火が、ちょっと強いよ」
「そうかい?かかさんは、いっつもこれくらいで、バーっとやっているよ」
「それは、かかさんだから、できるんだよ」

尻尾も振らず、耳もピーンと立て、じっと、真剣に、父狐とお肉を見つめます。
(真剣な目と口、かかさんに似たなぁ……)
ずっと見ているつもりかな。
父狐は子狐の瞳に、母狐の面影をじっと再確認して、
「ととさん!ダメ!けむり!ダメ!」
ギャンギャンギャン。視線を外したその間に、お肉を少し黒くして、子狐に吠えられたその結果、
般若の顔で仁王立ちの、母狐と目が、あいました。

拝啓。父狐の料理に責任を感じた子狐へ。
「自分が見ていれば父狐の炭焼きを阻止できるかも」と使命感に燃えた子狐へ。
君が見ても見なくても、父狐は料理を焦がします。
上手くいかなくたっていいのです。
どうせ失敗は決まっていたのです。
一切気にせず安心して、元気に遊び母狐のおいしいごはんを食べて、すやすや幸せにお昼寝なさい。
おしまい、おしまい。

8/10/2024, 2:52:21 AM