うずくまっている私の背中を誰かが後ろから抱いた。
その正体を確認したかったけど、思いのほか力が強くて身動きできなかった。
「そのまま聞いて」
耳元で囁かれた。あぁこの声知ってる。ようやく誰か分かったけど、どうしてこの人に抱き締められているんだろうとも思った。でも、今は素直に言われた通りそのまま動かずじっとすることを選ぶ。
「つらいよね。その気持ちが分かる、なんて軽々しく言えないけど、今のキミはいつもの調子じゃないことくらいは分かってるつもり」
「……それはどうも」
「だから俺は頑張れなんて言わないよ。もう充分、キミは頑張ってるから」
だからさ。あとはやるだけやってみたら?
サラリと言われた。決して投げやりな言い方じゃなかったけど、その言葉はとても軽くて、じんわり私の耳の中に浸透してゆく。まるでそよ風を受けたくらいの感覚。
できなくてもいい。上手くいかなくたっていい。
そのステージに立つことが重要なのだから。逃げも隠れもせず、たった1人で立つキミは誰よりも格好良いよ。
最後にそう言って私の体から温もりは離れた。でも、彼の言葉が魔法となってずっとここにいてくれる気がした。独りじゃないって、思えた。
やるだけやってみようか。挑むことに意味がある。結果なんて最初からあてにしてたら何もできない。立ち上がって大きく背伸びした。太陽が眩しい。風が気持ちいい。今の私は、間違いなく1分前の私より強くなっている。
8/10/2023, 3:08:32 AM