すっかり慣れた動作で手を差し出すと、眉を寄せた彼は無言のまま手を重ねてソファから立ち上がった。腰を抱かれ、距離がぐっと近づく。
私はこの時間が好きだ。嫉妬で満ちた彼と踊るこの時間が。私が踊るのを欠かさず見に来るくせに、他の男と踊っていることに欠かさず拗ねているのだから可愛くて仕方がない。
ステップは適当。ダンスホールはマンションのリビング。BGMは気ままな鼻歌。誰に見せるわけでもなく、ただ彼と踊るためだけのダンスだ。動きは合っていても合っていなくてもいいし、そもそもコンクールでこんなダンスは踊らない。
踊ってるうちに彼の顔が少しずつ和らいでいく。ここまでゆるゆると素で踊る様を見られるのは自分だけだと実感するにつれて安心してくるのだと言っていた。
可愛い可愛い私の恋人。私が踊るのは貴方だけよ。
『踊りませんか?』
10/4/2023, 5:52:26 PM