「なー、海行こう」
塾の帰り道、勉強の息抜きに海に行くことになった。
気分転換には丁度良い。
こういう時は海の街で育ったことを誇りに思う。
午前中だけ授業の日だったので、太陽の位置もまだ高い。
途中コンビニに寄り道して買ったソーダを飲みながら浜辺を目指した。
「おーおー輝いてんな」
「眩し……!」
「なんかいい石ないかな」
太陽の光が海に反射し思わず目を細める。
今日は本当に良い天気だ。
ヤツは海で水切りでもするつもりなのか小石を探している。
水切りがしたいなら川のほうが良かったんじゃ……と思いつつ近くにあった手頃な棒を拾った。
そのまま砂浜に文字を書く。
「今日の復習です」
「んぇ?」
気の抜けた声の主は手頃な石がなかったのか、落ちてる貝殻を吟味していたようだ。
左手に2、3枚貝殻が乗っている。
「ほら復習、【蛍雪】」
「あー、けいせつ」
「【放埒】」
「ほ、ほうらつ……」
「【誤謬】」
「なんだっけこれ!!」
間違えたんだよなぁ、と砂浜を眺めるヤツを横目に波打ち際に向かう。
先ほどと打って変わって水を含んだ砂に書く文字は少し重たい。
二文字を書き終え叫ぶ。
「じゃあこれはー!!」
「あー?なんでそんな遠いとこ書くんだよ!」
文句を言いながらも駆け寄ってきたヤツがたどり着く前に、大きな波が書いた文字を攫っていった。
「消えてんじゃん、愛……昔……?」
そんな言葉あったか?と、顔を傾けながら私が書いた文字を想像している姿に笑ってしまう。
手に持ったソーダを一口飲み、まだ冷たいボトルをヤツの頬にくっつけた。
今はまだ、波が攫ってくれるくらいがちょうど良い。
「ひそかな想い」2025.02.20
2/20/2025, 12:44:39 PM