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目を覚ます
カーテンの隙間から朝陽が漏れて、部屋を薄明るく照らしていた。遮光カーテンだから本当は部屋に光は届かないのだけれど、毎回締めが甘いのかいつも隙間が空いている。
その隙間から、徐に外を覗き見た。
冬の冷気が窓越しに肌を刺す。ひんやりと凍った空は嫌味なくらいに透明で、朝焼けの光が焼きついた。
カーテンを開けないまま、窓を少しだけ開ける。隙間の隙間からいろんな人の生活が一気に聞こえてきて、澄んだ冷風が生ぬるい室内へ入ってきた。
風に当たり、寒さに震え、音を聞く。
近所の高校生が元気に行ってきますと家を出て行った。同時に八百屋からトラックが出て行くエンジン音。
自転車に乗った中学生が新聞配達のバイト帰りに焼き芋屋で焼き芋を買って、それを見た出勤前の男性が自分も一つと声を張り上げ駆け寄って行く。
「佳奈、朝よー。今日も学校行かないの?」
嫌な声に、思わずうずくまった。何度かトントンと部屋の扉を叩かれ、返事がないとわかると、お母さんは扉の前にご飯を置く。
「お母さんもう行っちゃうからね、お風呂入りなさいよー」
呼吸がうまくできなくなった気がして、思わず口を開け大きく吸い込む。ぜぇぜぇと息が荒れる。さっきまで簡単にできてたのに。
うずくまった自分からは、外とは違う、すえた匂いがした。

10/12/2023, 1:06:06 AM