つぶて

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束の間の休息

 タイムマネジメントこそ、地方改革の礎となる。
 その力強い言葉に感銘を受けたのは、僕だけではなかった。若者世代を中心に大多数の票を集めた新知事は、満を持して「あと五分だけ」条例の採択に踏み切った。これで束の間の休息が確約されたのだ。僕は歓喜の涙を流した。その感動を同期たちと共有することも忘れなかった。
 「あと五分だけ」条例は、朝の7:00から五分間、時計が進まない無の時間が与えられるというもの。その代わり、深夜23:55からの五分間が無くなる。無の時間は何をしてもいいが、休息が優先される。
 当然、僕はその五分間を二度寝にあてることにした。それはあまりにも豊かな五分間だった。本来、存在しないはずの時間なのだ。忙しい朝とはいえ、目を閉じるのに罪悪感を覚えることもない。たかが五分、されど五分だ。噛み締めるように味わうことで幸福感は倍増。日中のパフォーマンスが向上したのは言うまでもない。僕は仕事にも精を出し、メキメキと成果を上げた。
「時計とか面倒臭くない?」
 飲みの場で、他県の友人が言った。
「それは大丈夫。システムが調整してて、朝7時以降は他県と合うようになってる」
 どうだ、羨ましいだろ、と満面の笑みで言うと、友人は大きく息をついた。
「そういうの、なんて言うか知ってる?」
「え、なになに?」
「朝三暮四」
「……」
 どういうわけか、僕は急に疲れてきた。

10/8/2024, 3:21:01 PM