はな

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さよならを言う前に



深夜、目が覚めたのではなく意図的に目を開ける。
ベットライトしかついてない部屋は仄暗く、聞こえるのは空調が動く音と隣の寝息だけ。

もう金輪際、この部屋に来ることはない。
このベッドで寝ることも。

きっとこれは2人がいい未来に行けるための行動だから。この行動がいつかきっと、遠い未来、こうしてて良かったと笑える日が来る為に。
キュッと目を瞑り、ゆっくり息を吐き出す。
起こさぬ様にそっとベッドを抜け出し、落ちていた服を身に付ける。
シャワーは浴びない、起きてしまうといけないから…なんて言うのは建前で本当は洗いたくないから。隣の温もりを…なんて、乙女が過ぎるだろうか。


「んん、…」
モゾモゾと動く気配がして、ピンッと緊張が張り詰めた。しかし寝返りを打っただけの様で、また規則的な寝息が聞こえ、重たい息をつく。

その溜め息の意味は、安堵かあるいは…

そんな思考を振り払う様に頭を振り、荷物を手にする。必要最低限、たった一つの鞄を持って今から己は、この温かくて捨てきれない場所を離れる。


最後に振り返って、じっと見つめる。
もう見納めだから。でも見てたら最後の欲が出てきてダメだと思いつつ体も心も止めることはできなかった。


これで最後、最期だから。
だから、さよならを言う前に口づけを。

8/20/2024, 1:50:04 PM