怖がり
怖い。 怖い。
暗いところ。迷子。知らない人。魚の小骨。
怖い、怖い、怖くって仕方がない。
……小学校に入学したばかりの頃だった。
階段の裏で泣きじゃくる私に、差し出された小さな手。
『あはは、キミは怖がりだなあ』
『…友達は?』
「…まだ、いない、の…」
『そっか… じゃあさ、ワタシと友達になってよ。
キミが怖がりを卒業できるまで、見ててあげる。』
…それから、あなたはいつもわたしの手を引いた。
発表会だって、お祭りだってそう。
給食の魚を食べる時も、あなたは骨を取ってくれた。
いつでも一緒に、私の一歩先で……
絶対に見捨てずにいてくれる。
絶対に助けてくれる。
絶対に手を引いてくれる。
まるで、わたしだけのヒーローだ!
『…キミさー、怖がり治んないし…ワタシがいないとダメなんじゃない?』
卒業式の日、あなたがそんなことを聞いた。冗談ぽく笑ってはいたけど、わたし…私は、こくりと頷く。
「…うん」
『…あははー、ほんと?
じゃあ、これからもずっと一緒に居てあげる』
そう差し出された手を、そっと握って繋いだ。
離れないように。見放されないように。
繋いでいた。はずだったのに。
中学に上がると、あなたには新しい友達がたくさん出来はじめた。 私には、あなたしかいなかったのに。
…そのうち私を、あなたは助けてくれなくなった。
恋人だの友達だの、いつも人間に囲まれている。
わたしの。
私だけのヒーローだったのに。
『何それ。 …ワタシいなくても生きなよ』
きっと話したら分かってくれると思った。
だからあなたを呼び出した、のに…揉めちゃって。
「でも、あなたが…ずっと一緒にって」
『それ小学生の時の話でしょ!?』
「で、でも…っ」
『…震えてるじゃん。いつもみたいにさ、ひとりで隅っこに蹲ってんのが似合ってるよ。 一生卒業できない、怖がりなんだから』
あなたはそう吐き、階段を降りようと踏み出した。
そう。卒業しなきゃいけないな。
怖い。
怖い、はずだったのに。
……血も。
階段の下で倒れているあなたも。
不思議と怖くなかった。
震えも治まっていた。
私は、昔みたいに…そっと、あなたの手を握る。
「…………ねぇ」
…返事はない。
「……わたし」
「……怖がり、卒業できたみたい……」
暗い場所も、迷子も、知らない人も、魚の小骨も、
もう怖くなくなっていた。
…あのときみたいに。
あなたが階段の裏から、私の手を引いて、外へと連れ出したみたいに。
次はわたしが連れていこうね。
わたしは階段の裏まで、あなたの手を引いて……
3/16/2026, 1:30:24 PM