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風に身をまかせ

春らしい強風。せっかく咲いた桜も、今日中にほぼ散ってしまいそうな勢いだ。
端末のカメラを掲げていた彼女も、顔の横に下りていた髪に視界を奪われている。両手が下がり髪を払うが、風がまた悪戯をする。最終的に顔を振るが、ちらちらと見えるだけですぐに塞がれてしまう。
諦めて俯きがちに風が弱まるのを待つ彼女に、思わず口角が上がってしまう。手を伸ばして顔にかかる髪に触れると、ぴくりと動くが抵抗はない。
さらりと避けた先に、彼女の横顔が覗く。
普段男士達を率いている本丸の長である彼女が、睫毛を振るわせ、恥ずかしげに横目で見上げてくる。
その時、ざわりと何かが体を駆け上がって、一層強い風が背を押した。ただの強風に揺らぐような体幹をしていないのだが、ふと体が傾いて一歩が前に出る。
悪戯好きの風に身を任せ、いや、背を蹴飛ばされ、衝動のままに赤い頬へ唇を寄せた。

5/14/2026, 2:17:24 PM