NISHIMOTO

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 部屋から部屋へ移るときのちょっとの段差。ちょうど良いからと腰掛けるともう動けなくなる。片手が洗濯物を選んだまま、かごの縁を止まり木にしていた。
 隅っこで小さな存在になると、自分が人間でない気がしてくる。寝て起きたら、鳥から人間に生まれ直せるのだけれど、干してから寝なければならない。
「どうしたの」と同居人が脇に腕を差し込んできた。揺るぎない力でゆっくり立たされて。
「ちょっとね」
「うん」
「ちょっと、鳥にね、なってみたかっただけ」
「ふうん」
ふたりで洗濯物を干し終える。カタンと音を立ててかごを片付けて、ごめんとつぶやいた。
「夜だからね」
物音ではなく、手伝わせたことへの謝罪だったんだけど。まあいいかと思った。自分だって手伝って謝られると居心地が悪い。
 ふたりで布団に入った。
 真っ暗な部屋は隅がどこかもわからない。体の大きさも、文鳥か、人間か、鷲か、烏か、わからない。慣らした目を開く気にもならない眠気が酷くて、あくびと一緒におやすみを告げた。これっぽっちも起きていられそうになかった。
 返事より先にもぞもぞと向こうの布団山が動く。
「あたしは   が良いや。おやすみ」
朝、鳥の名は思い出せなかった。

12/7/2023, 12:56:27 PM